イラクの憲法が約束するもの

現在イラクで進行中の立憲プロセスは、すべてのイラク人にとっての、希望に満ちた金字塔と言える。憲法を数十年にわたって継続的に強要されてきた後、当選した憲法選定会議は、新しい永続憲法の起草を管理しており、草案は 10 月 15 日にイラク国民により票決される。

すなわち、草案のさまざまな条項についての現在の議論は的外れである。国民投票が成功しようと失敗しようと、また憲法の文面の詳細がいかようであろうと、もっとも大切なことは立憲プロセスの確立であり、国民投票前後の政治制度である。

国民投票前のフェーズについては、国民議会はほとんどの責務に成功した。イラクの暫定憲法が起草プロセスにおいて、議会に排他的な権限を付与したにもかかわらず、議会は賢明にも立憲起草委員会の組成において議員数を超える合意を勝ち取った。

イラクの指導者たちは、特にスンニ派になどの、イラクの多民族および多宗教によるモザイクの大部分による選挙への参加が減少していることを十分に認識している。したがって、議会で支持者の少ないものの、憲法の制定のみならず、国家の傷を手当てするためにもプロセスへの参加および所有の意識が不可欠である議員が明らかになった。これは単なるジェスチャーではない。

合意は法の支配を確立する上で重要な構成要素であり、イラクが真に変化の局面を乗り越え、単一政党がイラクを支配することはないというメッセージを伝えた。国民議会に選出された者が民主主義は単に多数決による意思決定を意味するわけではないことを理解していたことは、重要なシグナルであった。

その代わりに、すべてのイラク人は立憲プロセスへの参加を許され、最終的な合意が得られなかったことさえも、民主主義化プロセスに一部である。最後には、イラクの投票者はこの憲法が、近い将来そのもとで統治されることを望むものであるかを決定するであろう。去る 1 月の選挙に参加しないことを選択した者は、今回国民選挙および 12 月に予定されている新議会選挙には、もっとも確実に参加するのであろう。

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起草プロセスで第二に重要な特徴は、イラクの暫定憲法 (TAL: Transitional Administrative Law) にどの程度国民議会が従うかであった。2004 年 6 月の政権移譲の時点で、多くの専門家は、当選した国民議会は、落選した統治評議会により起草され、支配的勢力によって交付された暫定憲法を無視するであろうと予測していた。しかしそういった事態は起こらなかった。

TAL は議会に、最初の憲法草案の完成について、厳しいスケジュールを課し、議会はこれらの期限を確実に遵守した。期限を延長したものについても、TAL の精神および文面に従っていた。長くなったが、結論としてはイラクの立法府は立憲原則および法の支配により制約を受けることを理解していると言えるであろう。

ただし、機構設立の試練は、憲法が可決され、新政府が設立された後に訪れるであろう。選挙に勝つのが誰であれ、憲法の文面に手を加える誘惑はあるであろう。そういった誘惑は理解できるが、不適切な動機から行われることがあってはならない。

しかしながら、イラクの現代史において憲法に少し重点を置いてみると、政治階級が草案に手を加えないであろうことが予測される。対立する必要性を無視すれば、当面は憲法を遵守し、遵守しているように見せかけることが重要であり、条項を改善することよりも有利であるという計算が働くと考えられる。

イラクにおける統治を確立する必要があるのは、個人ではなく機構であることは言うまでもない。アメリカの統治は、一部の人間による、イラクを軍事独裁者 (caudillo) に返還するようにという要求に対抗した点で、完全に正しかった。イラクの過去 35 年以上にわたる悪夢からの救済は、一人の人間に委ねられるものではない。実に、「一人の人間」への依存はサダム独裁による支配の中心的な要素であった。

ここでまた、イラクの直近の過去の歴史が楽観することを認めている。イラクの統治評議会が単一の議員によって支配されることはなかったのであり、イラクの継承政府もまた協同で運営されている。

イラクの直近の未来にとって、憲法によって定義される政治機構に生命を吹き込むことは、憲法に含まれる特定の条項よりもはるかに重要である。それこそがイラクのみならず、独裁者により支配される諸外国においても失われている構成要素である。

憲法はたびたび、高尚な原則を奉るものであり、基本的人権の保護をうやうやしく保障するものである。問題は、これらの保障が、真に地に足を着いて与えられるものであるか否かである。直近の過去を教訓とするならば、イラクには楽観する理由がある。

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